吟醸らーめん「久保田」@花屋町通西洞院下ル 2008.04.12實食

課題店ではあつたのだが、微妙に交通の便が惡い場所にある爲、なかなか訪れることが叶はなかつた。
加へて亊前の情報で「白醤油」を使用してゐる、との話であつたので、上記「餃子 てん」らーめん「まあち」の樣な甘つたるいか、或いは味のしないラーメンではないかとの懸念もあり、足が向かなかつたのも亊實である。
この日も京都驛で約90分の時間的餘裕があつたものの、荷物が多かつたので近場で濟ませやうと最初は「京都拉麺小路」に上つてみた。しかしさすがに行樂シーズンの土曜日、軒並みげうれつであつたので、意を決して足をのばしての初訪問と相成つた。

吟醸醤油らーめん」650圓+半熟煮卵(半分)50圓 を ちう悶 www

店主・久保田達彦氏の實兄である雅彦氏が代表取締役を務め、「久保田」の經營母體でもある株式会社「アクトマン」のH.P.では 「吟釀白醤油らーめん」 と記載されてゐるが、店内のメニウでは 「吟釀醤油らーめん」「白」 の文字が拔けてゐた。
實際、メニウに書かれてゐる能書きを讀むと、 「鶏ガラや丸鶏を8時間煮込み、鰹節・スルメ・干し海老・利尻昆布を加えた出汁に、 数種類をブレンドした醤油で 仕上げたスープです」 となつてゐる。
此のブレンドした「数種類」が全て白醤油なれば、「白醤油らーめん」と名乘つても差し支へあるまい。しかし、白醤油の使用があくまで數種類の中の一部にしか過ぎない状態で「白醤油」を名に冠したとすれば、タレの一部に味醂を使つてゐるから「味醂らーめん」だ、と言ふのと全く同じレヴヱルの その眞の姿を言ひあらはしてゐるとはいひ難い、 單なる戰略的名称 にしか過ぎない。
その觀点から見ると、店のメニウで 「白」 の文字が拔かれてゐるのは、亊實に即した至極眞つ當な表示だと思はれる。H.P.の方では價格も値上げ前のものなので、そちらの改訂の際に名前の方も同時に修正されては如何であらうか?
さて、店名の「吟釀」「久保田」からは あるモノ が連想されるが、幾つかのブログでも書かれてゐる*1 *2 *3通り「久保田」とはオーナーと店主の苗字であり、あの 名前ばかりは有名だけれどもベシヤツと甘くてコクの無い、薄つぺらなボデイのアレ とは全く關係は無い。
日夲酒とは無關係だとすると、「吟釀」とはどういつた意味合ひを持つのであらうか?
H.P.には、 鶏肉をじっくり煮込んだスープと、 小豆島の吟醸醤油 を組み合わせた自慢のらーめんです。 と記載されてゐる。
しかし、「久保田」が使用してゐる、といふ小豆島で釀造元を調べてみたが、「小豆島観光協会H.P.」に揭載されてゐる7軒のうち、webで取扱商品を檢索出來なかつた「やまひら醤油」を除く6軒(「マルキン忠勇」「丸島醤油」「タケサン」「ヤマヒサ」「ヤマロク醤油」「元屋商店」)では「吟釀醤油」といふ名の商品は確認出來なかつた。
小豆島産の商品では確認することは叶はなかつたが、他の地方にも目を向けると確かに「吟醸醤油」なるネーミングの商品は存在する。ただし、日夲酒の場合、「吟釀」とは国税庁の「清酒の製法品質表示基準*4」でその基準が決められてゐるのに對し、醤油の場合、JAS日本農林規格)の「しょうゆの日本農林規格*5」に「吟釀」といふ項目は無く、それは單にメーカが 勝手に名前をつけてゐるだけ に過ぎない。
つまり、「吟釀醤油」とは「ミラクルウルトラスペシヤル醤油」とか言つてゐるのと何ら變はらない、 全く具體的な根據の無い ただの呼び名でしかないのである。
まあわざわざこの讀みにくいブログを見に來て頂いてゐる樣な、食に關する素養のある方々はそんなうわべだけのネーミングに騙されることも無いだらう。しかし、みのもんた古舘伊知郎の喋ることを何の裏付けも取らず盲目的に信じてしまふ樣な、  無知蒙昧な愚民ども  疑ふことを知らない純粹無垢な方々は、もしかしたら「何か明確な根據に基づいた、特殊なもの」 である樣な 錯覺を抱いてしまふかも知れない。
また、「吟釀醤油」が商品名ではないとすれば、先に擧げた能書きの 「数種類をブレンドした醤油」 のことを、店が 勝手にさう呼んでゐるだけ といふ可能性もある。どちらにせよ「吟釀醤油」といふネーミングは、とても アザトい ものであることに違ひは無い。
さて、アザトい、と言へば、店主の修行された「一風堂」は、ラーメン作りのあざとさにおいては當代無雙である。どうアザトいかについては「なかむら屋」の項でも述べたので詳細は割愛するが、「一風堂」での修行において、この「あざとさ」まで學んで來られたとしたら、それはフードプロデユーサとしての株式会社「アクトマン」の將來にとつて、大きな糧となることであらう。
勘違ひされてゐる方がをられるといけないので釋明するが、私はかういふ アザトい 商賣を非難するつもりは毛頭無い。自分のところで扱ふ商品を、より良くみせやうとネーミングに凝るのは經營者として當然の努力である。(ちなみに、麺屋「しゃかりき」の「ゾンビそば」はそのネーミングから賣れ行きが惡かつた、と聞く)
アザトからうとなからうと、私にとつて重要なのは美味いかマズいか、その一点だけなのだ。
・・・と、いつもの如く前置きが長くなつてしまつたが、味の評價に移らう。


吟醸醤油らーめん+半熟煮卵


丁度先日、某巨大揭示板で「味が薄い」「薄くない」といふ話が出てゐたが、實際スープを飮んでみると確かに ひと口めのイムパクトが弱い ことは否めない。ただしそれは「薄い」譯ではなく、ダシの旨味はしつかりと出てをり、ボデイの脆弱さは全く感じられない。どちらかといふと タレが「ひと味足りない」 爲、スープの飮み始めに「舌に味が乘らない」感覺なのである。
反面、ぢんわりとたなびく後味は心地良い。貝ダシのコハク酸に近い感じがしたので干し貝柱でも使つてゐるのかな、とも考へたが、調べてみるとどうやらスルメがこの後味にひと役買つてゐる樣だ。
最初に書いた白醤油に關して言ふと、はつきり言つて使つてゐるかどうかはわからない程である。でもラーメンの樣な濃い味がデツフオールトの料理で白醤油を前面に出してしまふと、どうしてもネガテイヴな面が強調されてしまふので、白醤油が「かくし味」となるかやうな使ひ方は誠に理に適つてゐると言へやう。だが少なくとも此の味を「白醤油らーめん」と称するのは單なるこじつけにしか過ぎない。
尻極、旨味が少なく甘みが強い、といふ白醤油の特性自體が、 もともとラーメンのタレにメインで使用するのには向いてゐない ものなのだ。それをわざわざラーメンの名前に冠するといふことは、先に述べた通り 單なる戰略的名称 であるか、或いは 食材について全く無知であることの証明 であると思はれても仕方の無い、愚劣極まりない行爲であるのだ。
さういふことの無き樣に、店内のメニウだけではなく店外の立て看板やH.P.からも、此の忌まはしき 「白」 の文字を一刻も早く消去するのが望ましい。
味の評價に戻るが、ひと口めの味の「乘りの惡さ」もさることながら、此のラーメンの最大の弱点は、何と言つても 麪の不出來 であらう。開店當時の麪を途中で變更し、現在は全粒粉の細麪を使つてゐるのだが、店主は  正氣で  夲氣で此の麪がベストだと考へてをられるのであらうか?
確かに全粒粉の香りこそかすかに感じられないこともないが、それがスープと喧嘩することこそないものの、「よく合つてゐる」とまではとても言ひ難い。
何より、食感が惡い。 此についてはとしむね氏も書かれてゐた*6が、まるでのびてしまつた蕎麦の樣に、噛むとフニヤリと力無く崩れてしまふ感覺は大きな問題だ。食感の惡さを無視してまで此の麪を使つたことによる味の上でのアドヴアンテイヂがあるならまだしも、それが微塵も感じられない以上、全粒粉が流行つてゐるから 「ただ使つてみただけ」 なんだらう、とのそしりを受けても致し方ないであらう。
私は全粒粉に變わる前の麪を知らないが、同じ細麪でもしつかりとコシのある、表面がつるりとしたタイプの方が遙かに相性はいい樣に思はれる。此のスープに合はせる麪が全粒粉である必然性は、どこにも無い。
細切りにされたチヤーシウは、スープのキヤラに合はせたつもりなのか脂身の少ない肉が使用されてゐる。しかし此の選擇にも大いに疑問が殘る。スープ自體があつさりなのに加へてチヤーシウがこれでは、どうしてもラーメン全體として見た場合、 貧弱なイメイヂが強調されてしまふ のだ。スープがあつさりの場合、チヤーシウは卷きバラ等脂身の多いものにした方がバランスが取れ*7、滿足感が高くなるのではないであらうか?
これについては私だけでなく、前出のat_you_see 氏t_cognac 氏も同樣の意見を持たれてゐる樣だ。麪ほどの緊急性は無いにしても、要改善亊項のひとつであらう。
逆に、油をかけて香りを立たせた葱は實によく出來た演出だ。落花生油ださうだが、この香りがスープ全體を引き締めてゐることは間違ひ無い。此のセンスがありながら、各所の詰めが甘くてラーメンの完成度が低くなつてしまつてゐることは、夲當に殘念極まりない。
味の方向性としては決して惡くはないので、開店一周年を機に、今一度細部をリフアインされては如何なものであらうか?


月 旧一的評價;★★+0.5。


ただし、「愛しのラーメン」流に ★★★★★ のどちらかに分類せねばならないとしたら、迷はづ ★★ にしてしまふことだらう。
まとめると

  • 美点
    • ダシのコクと後味
    • 落花生油のかかつた葱の香り
  • 欠点
    • ひと口目の味の乘りの惡さ
    • 麪の食感の酷さ
    • チヤーシウの種類の選擇

・・・となるのだが、これらの欠点のうち、タレの強化と麪の變更は必須亊項であらう。この2点が改善されねば、私がわざわざアプローチの惡いこの店を再訪する理由はどこにも見當らない。

 
追記
丁度開店一周年記念といふことで、歸り際にチヱリーケーキをお土産に頂いた。おそらくは「アクトマン・スイーツ・ファクトリー」の製品だらうが、これがなかなかの味であつた。H.P.によると近日中に「パティスリー タカ」として「楽天市場」にオープンされるさうなので、興味ある方は一度覗いてみられるがよい。
*8 


にほんブログ村 グルメブログ ラーメンへ