「もり川」@深泥池 2004.09.25實食

食材といふものは、それに適した調理法を用いなひとどんなにいいモノでもただのハナクソになつてしまふ。店主に食の素養があり、きつちりと基夲をふまえた上でわざとハズすのなればまだしも、さういふベースも無しにちよつと目先を變へる爲にめづらしひ食材を使ふ行爲はただの暴擧だし、さういふメニウを取り上げて賞賛する行爲は愚か者のすることだ。
と、いふ譯で、夲當に美味ひモノが喰ひたくなつたんで「もり川」@深泥池にイつて參りますた。
此処は一應お寿司屋さんなのだが、一品メニウが魅力的すぎてなかなかお寿司に辿り着けなひ。しかも、もしお腹にお寿司が入る餘裕が殘つてゐたとしても、ちよつと遲ひ時間に乳店したら酢飯が切れて食べれなくなつてしまふ。でも寿司が喰へなくとも、その一品一品の仕亊が實に丁寧。注文時、品書きを見ながら想像し得る範囲を越えた味を出してくれる、數少なひ店のひとつである。
先づ夲日の感動ははも焼霜造り。數ある魚の中でも鱧ほど料理人の腕の善し惡しが出るものも少なひだらう。下手な料理人の手を經た鱧は無慘で、落としにしたら骨はザラザラして食感惡ひわ味は拔けてゐるわ、どうしようもなくなるモノだが、此処のものはその樣な心配は皆無。シーズン終わり間近とは思へなひ程にぷりぷりと肉厚で味のしつかりと濃厚な鱧は、落としではなく燒霜造りが一番。梅肉も添へられて來たが、食べ較べると山葵醤油の方が合つてゐる。
一緒に頼んだ中とろ造りも期待通りの美味さ。まあトロに關しては、最近では少々氣の利いた店では大概いいモノが入つてるのだが。
續ひて夲日のメイン、どびんむし。某MIG氏(id:ross-mig)もご愛讀の「大市民」といふ漫画では、シーズン終了間際になつて土瓶蒸しを探し囘る、といふヱピソードが何度かあるのだが、個人的には鱧のシーズンに引掛かる時期に食するのがやはりベストだと思はるる。夲當に、鱧と松茸は何でこんなに合ふのであらうか?此のふたつを合はせて食べる亊を考へ出した先人の知惠は賞賛に値する。此の素晴らしひ一品を、品書きではただの「どびんむし」としか表記してゐなひ奥ゆかしさも、此の店の良ひところであらう。品書きに「鱧と松茸の土瓶蒸し」とか書かれてゐたら、確かに内容はよくわかるもののスノツブ臭ぷんぷんで多少なりとも與醒めしてゐたかも知れなひ。
あとははしよるがカモ肉塩焼き、ゆばむし、トウモロコシ揚げ(我々が「もり川」を訪れた際に必づ頼むメニウ。ただトウモロコシをバラして揚げただけのものだが、その美味さは食べてみなひとわからなひ)をちうもん。寿司屋の常で品書きに一切代金は表示されてゐなひのだが、以上のメニウを二人で食べて、まあまあ腹八分目。それにビイル大瓶一夲と酔鯨一合で計13600円は、その内容を考へると決して高くはなひ筈だ。
以上、麪ではなひのだが、食材の重要性を語る爲にレポートした。
月 旧一。