一信@此花区春日出(一時閉店)

一信が3月10日をもって一時閉店されました。


創業は2001年5月だそうだが、一信を初めて知ったのは何年何月号かも忘れたがあまから手帖で紹介されたからだった。


よくもまあ、こんな辺鄙な場所で店を開いたもんやなあというのが第一印象で、普通あまから手帖で
紹介されたら行列とまではいかなくともカウンターが埋まる位はお客が入っているのが普通だがここにはいつも通りの空気が流れているように思えた。


店主の住田さんに断ればラーメンとメヌーの画像に関しては許可をしてくれるが、事前に断り無しに撮影しようとすると、すかさず住田さんから
「撮影するときは一言声掛けて下さいね。」
と注意が飛ぶ。
注意したからといって、機嫌を悪くするわけでもなく気さくに話してくれ、野球帽にTシャツ、ジーンズという出で立ちで淡々とそば(ここではラーメンではなくそばという)を作り続けるのである。そういう儀式があって背筋を伸ばしてそばの上がりを待ったお客も多いのではなかろうか。


そばのメヌーも醤油そばとチャーシュー醤油そばの二品のみ(夏のつけめんは後に追加されたが)で、オーダーを通すとそばをほぐして茹でる作業と、スープを一杯分手鍋に取って加熱する作業が始まる。すべてのタイミングにおいてベストなポイントを逃すまいと無駄の無い作業をこなす身のこなしとスープや平ざるを手にして麺を見つめる視線、おのずと店内には凛とした空気が流れ、お客はただその仕事ぶりをじっと見つめるのみである。


とんこつを使ってはいるものの濁らないようにじっくり時間を掛けて煮出し、同じく煮干しもえぐみや生臭みを感じないように抽出されている。ここに製麺所に依頼して、試行錯誤を繰り返した、黒小麦を使った独特の麺にローストビーフのようなチャーシューと小松菜、ねぎが添えられ仕上げに黒胡椒が掛けられる。



住田さんから、

「どうですか?」

と初めて問いかけられた際に

「う〜ん、一つ間違うと薄いと言われそうだし、『危ういバランス』ですねえ。」

と答えると住田さんはうれしそうな顔をして、そこらへんを狙っているので、そう言ってもらえた方が逆に嬉しいというような素振りを示した。それからは私が顔を出す度に、

「どうですか?今日も危ういでしょ?」「はい、危ういですな。(笑)」

と会話するようになったのである。




一信は自宅とはまったく正反対の方角に有る為、自転車中心の生活になったここ数年は一年に一度位の訪問になっていた。そろそろイカ粘!と月さんと日程の摺り合わせをしていた矢先に飛び込んで来たのが一信一時閉店の一報であった。


醤油馬鹿の私は醤油ラーメンならオゲフィン系の新福菜館とおじょうふぃん系の麺哲、カドヤ食堂、一信をローテで回っていれば常に満足だったが、ロケの都合とわざわざ一信に友人と行っても黙々と食べて帰るだけという淡泊さ故につい足が遠のいていた事は事実である。


そんな、不義理を悔いながら地下鉄とバスを乗り継いで春日出へ走る。いつもの笑顔で迎えられると申し訳ない気持ちで一杯になる。チャーシューそばとご飯をオーダー。ごはんが残っていて良かった!おいしく炊かれた
ごはんと、住田さん特製のつけもんが格別なのである。無化調を名乗りながらご飯のつけ合わせには平気で市販の毒々しいつけもんを出すちょっとズレたお店が多い中、ここはすべてにおいて心がこもっている。


開店当時からの研究の甲斐があって麺のボソボソ感は気にならなくなり、できあがりに掛けられるタレでちょっとアクセントを付けている。

目頭が熱くなるのを我慢しながら、なんとか食べ終えた。今日の一杯もいつもながらの危うい一杯であった。おいしかったです。


多くは話せなかったが、住田さん曰く
「心技体を充実させて戻ってきたい。」
との事であった。その言葉を信じて、さよならは言いませんよと言って店を出た。

あの笑顔で迎えてもらえる日が来る事を心からお待ちしております。


禿(かむろ) 波平