「豚一」@中崎町 久留米醤油ラーメン 2006.08.19實食

前々囘の「豚一ラーメン」*1、前囘の「焼きラーメン*2と二種類の麵の比較をして來た譯だが、前囘書いた樣に此の店にはまう一種類の麵がある。店が「硬くコシの強い粉っぽい白麺」と表現してゐる太陽製麺の「久留米醤油」「久留米塩」用細麵だ。「豚一ラーメン」の時同樣、壁の能書きを見てみると、

 ・麺:硬くコシの強い粉っぽい白麺
 ・スープ:十二年間追い足しを繰返した豚骨熟成スープ
 ・素ダレ:しょう油又は塩(久留米ではしょう油等を足した塩ダレですが当店は分けています)
 ・具:巻きチャーシュー、キクラゲ、泉州青ネギ

となつてゐる。
さて、「久留米ラーメン豚一」といみじくも店名に「久留米ラーメン」を冠するからには、店主は當然ながら久留米ラーメンとは何ぞや、といふイメイヂを明確に構築し、その地のラーメンを傳道する心意氣で臨まねばならない。ご當地ラーメンを他の地域で出す際の心構へにつひては以前、「熊本ラーメン一大」の時に語つた通り*3であるのでここでは省略するとして、先づは「久留米ラーメン」の定義を考へてみやう。
コイタのペーヂ
新横浜ラーメン博物館
等の情報を總合すると、

 1. 濃厚な豚骨スープ(博多より匂ひも強いものが多い)
 2. 太い麵(博多と比較して)
 3. 海苔が載せられる(ことが多い)

となる。
ただし、ラ博のペーヂにも記述がある樣に、實は久留米でも薄くサラリとした感ぢのスープの店が意外と多く、また個人的な經驗から言はせて貰ふと久留米では私の滿足し得る「濃厚な」スープには出會へたことはない。
まあそれはそれとして、定義に照らし合わせて見ると「豚一」の久留米ラーメンで定義を滿たしてゐるのは1. のみとなる。2. の麵についてはここの「久留米ラーメン」の麵は博多ラーメンのそれに近い低加水の細麵であり、確かに久留米にも「大龍ラーメン」等かなり細めの麵を出す店も存在するのだが、一般的に細麵を持つて來て「久留米ラーメン」と称するのはやはり無理がある。3. の海苔については絶對条件ではないので載せられてなくてもいいのであるが、折角「豚一ラーメン」には載せてあるのだから「久留米」を強調する爲にはこちらにこそ載せられて然るべきではなかつたのだらうか。
何より、「豚一ラーメン」が久留米ラーメンではないのだから話がややこしい。一體、店主にとつて「久留米ラーメン」とはどういふ意味を持つものだつたのであらうか?夲當に久留米ラーメンを作らうといふ氣があつたのであらうか??・・・まあスープが定義を滿たしてゐる分「一大」の時ほどのご當地とのひどい乖離はないにしても、久留米ラーメン以外のものを作りたいのであらば、やはり 店名に「久留米」の地名を冠する必然性は全く無い

・・・いかんいかん。 「ご當地ラーメン」の安易な流用 を見ると、ついつい前置きが長くなつてしまふ。ここからが夲題。

久留米醤油ラーメン


運ばれて來たラーメンのスープは適度に膠質系のとろみがあり、こつてり過ぎづシヤバ過ぎづ、消化能力の落ちて來てゐる私にとつては丁度いい塩梅。ただし旨味成分の方は控へめ、といふかはつきり言つて「味が足りない」。化調で味を「作る」のは言語道斷であるが、きつちりと 化調を入れて、足りない味を「補ふ」ことも大切 である。「一風堂」のあざとさや、「一幸舎」のタレでの誤魔化し方を一度勉強された方が良かろう。
低加水の細麵は先程書いた如く、久留米ラーメンといふよりも博多ラーメンのそれに近いのではあるが、スープとの相性で言ふと 「豚一ラーメン」のあのひどい麵 とは比べ物にならない程スープとよく合つてゐる。
次に具に目をうつしてみると、チヤーシウは卷きバラなので「豚一ラーメン」のバラ肉チヤーシウ同樣、豚骨スープと合はせるとくどくなり過ぎはしないかと危惧してゐたのだが、波平氏がレポートされた樣に*4向こうが透けて見へる程の薄切りにしてあつた爲か、しつこさは全く感ぢられなかつた。キクラゲが忘れづに載せられてゐるのもマル。唯一、具の中ではネギの選擇だけが疑問である。泉州青ネギとなつてゐるが、わざわざ久留米ラーメンで標準的な万能ネギではなく、それを持つて來る理由はどこにあるのだらうか?私が食した限りでは 袋入りの業務用の刻みネギとの違ひはわからなかつた し、また少々水つぽくてスープの味をスポイルするまでは行かぬまでもあまり合つてゐる樣には感ぢられなかつた。

これを「久留米ラーメン」と呼べるかどうかは別として、なかなかよく出來たラーメンではある。ただし、上記の如く膠質系のとろみはよく出てゐるのに ダシの味はひに欠ける のが氣になつた。
もし、店主が此のタレを以て「豚骨ダシそのものを味ははせる」つもりであるのなれば、それは 大いなる勘違ひ である。「豚一」の豚骨はその 客の少なさ故に煮詰まつて濃くはなつてゐる ものの、 到底そこまでのダシは出せてゐない 。かの「無鉄砲」ですら、「ヌキ(化調拔き、の意味)」では物足りなく感ぢてしまふのだ。「足りなひものは補ふ」ことにてらいを感ぢてゐてはいけない。


月 旧一的評價;★★ +0.7。


追記
「豚一」のメニウの中で「豚一ラーメン」は 最初から無かつた方が良い くらいであるし、「久留米ラーメン」程度のレヴヱルなればよしんば無くなつてしまつたとしても現在の大阪なら他の店で代用が利く。しかし、「焼きラーメン」のみは唯一無二の存在であり、他の店が作つても「豚一」の味を超えるものが出來るとは限らない。
その先行きにつき色々な噂を聞く「豚一」であるが、「焼きラーメン」が無くなつてしまふことだけは殘念至極である。未食の方は是非、今のうちに試しておかるる亊をオススメする。
 
 

*1:id:menmenmen:20051226#p1

*2:id:menmenmen:20060823#p1

*3:id:menmenmen:20050419#p4

*4:id:menmenmen:20051222#p1