「餃子 てん」@元町南京街 2000.12.11實食

※此の記亊は嘗て「KANSAI 愛しのラーメン」に掲載されてゐたものです。情報が大變古いこと、及び文章中での正字體、旧假名遣ひの使用を極力廃したことにり極めて讀み易い文章になつてしまつてゐることをここにお詫び致します。

月 旧一的評價;★★


南京街のメインストリートの一夲北の路地にある店。
店名は「餃子 てん」となってはいるが、実際は中華、韓国風無国籍料理の居酒屋、といった趣だ。
この店で有名なのは白しょうゆを使った「白しょうゆラーメン」である。


白しょうゆラーメン


白しょうゆとは関西圈ではあまり馴染みのない名前だがそれもそのはず、殆どが中部地方で生産されて消費地も愛知県、三重県周辺という地域限定の調味料なのだ。
で、普通の醤油とどこが違うのかというと、先づは原料。濃口醤油の原料中の小麦の比率が通常は50%程度であるのに対して白醤油の場合は95%以上と高く、大豆は殆ど使われない。また麹も蒸した小麦主体であり、炒って使う大豆の使用は少量にとどまる。
そして次に違うのは熟成期間で通常濃口醤油が半年〜1年位熟成するところを何と2ヶ月程で終えてしまう。これには理由があって、淡口醤油が色を淡くする爲に多量の塩分で発酵、熟成を抑えて熟成期間も短くするのと同樣、白醤油も色が薄くなる樣にわざと低温で発酵、熟成を抑えてその上、熟成期間を短くしているのだ。
結果、どの樣な味の違いになるかというと普通の醤油の糖分(直接還元糖)が発酵過程で殆ど酵母に喰われてしまって2%以下であるのに対し、原料にデンプン質が多く、しかも発酵を抑えている白醤油のそれは何倍にもなっていてかなり甘い。また大豆タンパクの割合が少なくなる上に熟成期間が短いので逆にアミノ酸は半分以下となってしまい、旨味は少なくなっている。
ただ、旨味が少ないからといって劣っているわけではない。JAS(日本農林規格)による醤油の格付けでは「特級」「上級」「標準」の三段階と「特級」の上に「特選」「超特選」があるのだが、「特級」で比較すると醤油の規格値(全窒素分の割合)が濃口醤油は1.50%(容量)以上、薄口醤油では1.15%(容量)以上・・・と全窒素分が○○%「以上」でなければならないのに、白醤油だけは0.40%(容量)以上0.70%(容量)未滿、と○○%「未滿」でなければならないとされている。これは他の醤油が窒素分、つまりアミノ酸=旨み成分が沢山有れば有るほど良い醤油である、とされているのに対して白醤油の品質の判断基準は「無塩可溶性固形分」と呼ばれるエキス分(主に糖分)の多さだからだ。

こうなるともう普通の醤油とは全くの別物である。原料が小麦、大豆に麹、そして塩ということで「醤油」に分類されてはいるが発酵をさせづに麹菌の酵素澱粉質中心の原料成分を分解、消化して糖化させたもの、という点では醤油というよりはむしろ味醂に近い。

そして当然ながら、その使い道も大分変わってくる。
主な用途は料理の素材の色を生かす目的や色を濃くしたくない場合で、うどんつゆや茶碗蒸し、おすましや煮物等に使われる。他には料理のテリ出し、湿潤感の演出、そして甘さと辛さの橋渡し的役割として、かくし味として使われることも多い。

前置きが長くなったがその「白しょうゆ」を使ったラーメンの味はどうだろう。
白醤油のおかげか淡い琥珀色のスープは一見、シンプルですっきりしていそうに見える。確かに鷄ガラや昆布ダシ、そして香味野菜を使用したダシはあつさりなのにコクがあり、かなりレヴエルが高い。
しかし!!残念なことにこのスープは甘い。しかもかなり甘ったるく、少なくとも私には胸が惡くなる程の後味なのだ。
確かに兵庫の播州地方には甘いスープのラーメンというものが存在し、それなりの評価も得ている。だからこの店のラーメンにしても好みの問題で、甘いのが嫌いだったら別に食べなかったらいいじゃないかと言われればそれまでなのだが、ベースのダシの出來がいいだけに夲当に残念なのである。
この甘ったるさはやはり白醤油のせいだろう。まあラーメンのタレを作るのに醤油のかわりに味醂を使っている樣なものだから当然といえば当然なのだが、そうまでして白醤油にこだわらなくても何故シンプルに塩ラーメンにしてくれなかったの?!というのが実際の感想だ。もしこのダシですっきりした塩ラーメンが出來たら が一つ、いや場合によっては二つ増えたかも知れないと思うとかえすがえすも残念である。

前述の通り、白醤油は東海地方でうどんの汁に使われたりはする。だから汁物に使ってはならない訳ではないのだが、うどんだしとラーメンのスープは根夲的に違うものだ。そこにわざわざ白醤油を持ってきたからにはそれでならなければならない理由があってのことなのだろうか?
つまりは白しょうゆという素材に巡り合ったのでそれを使ってラーメンを作ってみたかったのか、それともラーメンを作っていて理想の調味料として白しょうゆを探し当てたのか、ということだ。
ラーメンの味をみた限りでは私は前者の方ではないかという気がする。確かに「白しょうゆを使ったラーメン」としてはよく味をまとめ上げていると思う。しかし、「これなら塩ラーメンにしてほしかった」と思わせる時点で白しょうゆにこだわった故の限界が見えてしまっているのだ。

誰もが使っていない素材を使いこなしてみたい、という誘惑はわからないでもない。敢えてそれに挑み、独自の味でそれなりの成果を出していることには感服するが、やはり私は塩ラーメンにした方が絶対に美味いと思う。

SPECIAL THANKS
醤油に關する記載につきまして御指導頂きました片上裕之氏*1に心より感謝申し上げます。
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