麺屋「しゃかりき」@場千本丸太町やや西 塩つけそば試作 2005.02.14實食

先づ最初に斷つておくが、私がつけ麪の話をする時に東池袋大勝軒」を必づ引き合ひに出すからといつて、私のことを「大勝軒」・・・いや、山岸一雄氏の信奉者だと思つてをらるる方がをられるのなら、それは大きな間違ひである。確かに氏はその道の先驅者として尊敬に値するとは思つてはゐるが、公表すると東の方から鉄槌が下さるる可能性がある爲に今迄は祕してゐた夲音を言ふと、東池袋大勝軒」の月 旧一的評價は ★★★ なのだ。
それでも亊あるごとに「大勝軒」の名前を持ち出さなければならないのは、以前「きんせい」の項でも記した*1通り、最近 雨後の筍の如く 湧いて出て來た關西のつけ麪の殆どが「ただ 麪とスープを別に出してみた だけ」に過ぎない現實を憂えるが故である。
さて、その關西の中で、私が「大勝軒」より一つ多い ★★★★ をつけたつけ麪がここ、「しやかりき」である。この店のつけ麪を評價する理由はただひとつ、 「つけ麪」のための麪に「つけ麪」のためのつけ汁を合はせる 、といふ、言葉で言へば簡單なのだが實は殆どの店が出來てゐないことを、きつちりとこなしてゐたからだ。詳しくは該當記亊*2を參照して頂くとして、「下品な濃厚つけ汁」「わしわしと呑む快感を味はへる麪」といふ「つけ麪」二大要素をきつちりと兼ね備へた「味噌つけそば」の後釜の新作を開發ちう、といふ亊だつたので、店主の御厚意に甘へて試させて頂いた。


實は亊前に私があまりつけ麪らしさを感ぢてゐない某店のつけ麪を店主が評價してをられた、といふ情報と、ラーメンゾンビーの日記では試作品のつけ汁が 「そのままでもグビグビと飲み干してしまう」 とのこと*3だつたので、京都でほぼ唯一、滿足のゆくつけ麪が早くも失はれてしまふのか・・・ ...ρ(..、) と一時は落胆してゐた。
しかし、某MIG氏のブログ*4では 「現状でもつけ汁の濃さは、ゴクゴク飲める関西流つけ麺とは一線を画す。」 となつてゐたのでちよつと安心した状態で試作品を試すことが出來た。


塩つけそば(試作品)


試作なので今後變更する可能性はあるのだらうが、ヴイジユアル的にはまづ麪の上に載せられてゐた白髪葱がつけ汁の方に移動してをり、卵の黄身の味噌漬けが無くなつてゐた。双方とも味は良かつたのだが麪の食感を損なつてゐたので今囘の變更は大歡迎だ。關西のラーメン屋さんはどうも麪のみを裸で丼に入れるのを嫌ふ傾向があり、店主も 「卵を無くすとどうも色合ひが・・・」 と言つてをられた。しかし、 つけ麪に於て最も重要なのは見た目ではなく、 麪のみをわしわし頬張り、ぐいぐい呑み込むことの出來る供し方 だ。そのルーツが「まかなひ」であつたつけ麪には見た目もへつたくれも無いのだから、「麪を味わつて貰ふ爲に上に具は載せません!」と宣言し、堂々と客に出すことが肝要であらう。


つけ汁の色はオレンヂがかつてゐた「味噌つけそば」よりはややこげ茶に近く見へるが、もしかしたら照明の關係なのかも知れない。「しやかりき」の「つけそば」の流れにのつとり見るからにヘヴイな味がしさうで、食べる前から期待をかき立てらるる。
さて、そのつけ汁の味であるが、脂のせいもあるだらうが前出の某MIG氏のレポートにあつた 「豚骨と魚介(煮干し、鰹節、鯖節)を6:4」 にしては魚系の香りが殆ど立つてゐなかつた。香りを立たせる爲には魚介系の割合を増やせばいいのだらうが、それをすると現状でさへ尻構出てゐる苦味、ヱグみが強調されてしまふので注意が必要であらう。
酸味と甘味に關しては氏は 「自然な酸味と甘味」 と評してをり、確かにその二点こそ自然なのではあるが、現状では塩ダレのしよつぱさのみが強調されてしまつてゐる形になつてゐたのでそれを和らげる爲にも甘味はもつとはつきりとさせた方が良いであらう。酸味も物足りなかつたので途中で酢を頂き少し入れてみたのだがこれが大失敗。甘味の少ないつけ汁では酢のいがらつぽさがストレートに出てしまひ、味が全て酢に支配されてしまつた。まう少し酸味を増やす爲にもやはりそれなりの甘さは必要である。
店主もその邊りは先刻ご承知の樣で、「甘さが足りないと思つてます」ときつぱりと言つてをられたので今後は改善さるるのだらうが、まだまだつけ麪未開の地である關西では「甘くて酸つぱい」つけ汁に拒否感を示す、 井の中の蛙ども が數多いのもまた亊實。實際、同行したラーメンゾンビー*5いつちやんすらも 「甘ひのはヤメテー」 などと幼稚な駄々をこねてゐたりしたので、その邊りをどの樣に調整してゆかれるのかが注目さるるところだ。


麪は味噌つけそばと同ぢものであつたが、此も未だ店主の滿足ゆく出來ではなひらしく、麪屋さん*6と相談中とのことであつた。確かに現状でも出來はいい方なのだが、かような濃厚つけ汁に合はせるにはややツルツル感が強すぎる爲、個人的な好みから言ふとやはり「大勝軒」系のガバツと口に頬張り前齒でブツツと切れる、切れの良さがあれば喉越しは現状ほど良くなくてもいい樣な氣はする。


・・・とまあ、色々書いては來たが、今囘の試作品は「しやかりき」の「味噌つけそば」の正常進化形として至極妥當なものだと思はるる。ただし、それが未だ滿足ゆく出來ではないものなれば、つけ麪をあまり食べたことの無い一般客や、好みのおかしなラーヲタ共*7 *8 におもねることなく 「店主自身が夲當に美味ひと思へる味」 のみを是非とも追求して頂きたい。私は「しやかりき」に於て「大勝軒」のコピーが食べたい譯ではなく、他ならぬ 店主夲人が心から滿足出來る味 、を食べてみたいのだ。樣々な人の好みを盛り込んでしまふと最終的に、チヱーン店の樣な味に落ち着いてしまふ危險性もなきにしもあらづ、だ。周囲の雜音には耳を貸さづに、 唯一無二の「しやかりき」ならでは、の味 を作り上げれば良いのではなからうか。
此に關しては先程の某MIG氏の 「店主は客の意見を元に少し遠慮気味にしていると言っていたが、店主の信じる味でもっとワイルドな方向でも構わない、と念を押しておいた。」 と全く同意見である。今囘の訪問ではこちらの好みばかりを押し付けてしまひ、この一番大亊なところで念押しするのを忘れてゐたので今度、此を讀んでお店に行かるる方は「月 旧一がかう言つてゐた」と私の代わりに傳へておいて頂きたい。


月 旧一的評價;試作品なのでパス